自然の中に建つ家は、
シアタールームを備えた特別席
愛知県新城市西部。車が行き交うバイパスからほんの少し外れるだけで、時間の流れが緩やかになります。初秋の澄んだ空、なだらかな青い山並み、刈り取り目前の稲田。その中に「杉山の家」が見えてきました。斜めに立ち上がった個性的なフォルムなのに、焦げ茶を基調とした佇まいが背景の山並みにしっくりなじんでいます。家の中には、ご主人こだわりのシアタールームも。どんなふうにこの家ができたのか、施主ご夫妻にお話を伺いました。(取材・構成 本間徳子)
  • 用途専用住宅(単世帯)
  • 構成-
  • 構造木造在来工法
Q1.ご主人は、Diktaの原田と中学時代の同級生だそうですね。

施主・夫

そうです。数年前、「そろそろ自分の家を建てよう」となって、それなら絶対にシアタールームが欲しいと思いました。要するに、僕はシアタールームのために家を建てたんです(笑)。まずは家づくりのことを勉強しようと思って、本を何冊か読みました。大きく印象に残ったのがMac安田さんの本(『建築費500万円を節約するかしこい家造り』 実業之日本社)です。「家を建てるなら建築家に頼むべし」という結論に達した、というか、洗脳されました。シアタールームをつくる前提があったので、なおさらです。それで「そういえば、原田が建築(学科)に進んだよな」と思い出しました。ネットで検索してみたら、ちゃんと建築士になって、豊川で設計事務所を構えている。建築相談をしてるって書いてあったので、申し込んでみました。

原田

それが、うちの事務所で前代未聞のお問い合せメール。住所も名前も書いてないんだもの(笑)。

施主・夫

そうそう。名前や連絡先の欄が「入力必須」になってなかったから、そこは空欄のまま送信しました。

原田

正直、「こんな怪しい人、返事来ないほうがいいな」と思いながら、おっかなびっくり返信しました。そしたらお前だった。

施主・夫

必要なら、「入力必須」にしとけよ(笑)。ともあれ、「中学時代からさらに性格がゆがんでなければ、まあ、あいつは信用できるかな(笑)」と思っていたし、事務所のホームページを見て、考え方が共通しているという印象も持ちました。それで実際に会ってみて、「原田に頼もう」と決めました。
ただ、ここは親の所有地を農地転用した土地なんですが、その手続きの関係で、家づくりはいったん中断しました。再開したのは最初の相談から3年後です。再開から3回目には、当時の婚約者、つまり妻も一緒にDiktaの事務所に打ち合わせに行きました。

Q2.そうでしたか。奥様は、設計事務所との家づくりについて、どう思っていましたか。

施主・妻

「同級生のあいつに頼むからね」って言われて、「はいっ」と。もう決定事項だったので(笑)。でも、夫は、なんでもちゃんと調べたうえで事を運ぶ人なので、「彼が大丈夫と言うなら大丈夫」と思っていました。あっ、ただ……。

施主・夫

ん?

施主・妻

ちょうど家づくりが始まったタイミングで、Diktaさんの完成見学会があって、見に行ったでしょ(笑)。

施主・夫

あー!(笑)

施主・妻

「老津の家」 ! 私はまだDiktaさんのブログもちゃんと読んでなかったのに、初めて見たのがあの家で。外観も、家の中も、すごく思い切った設計で、びっくりしました。その後にブログを読んで、「ああ、普通の家もつくってくれるんだ」と、ほっとしました(笑)。夫と「これだけの家を安全に建てられるところなら、安心して任せられるね」とも話しました。

施主・夫

「老津の家」 は、屋内にボルダリング(壁登り)用の壁も作ってありますよね。あれを見て、「家づくりって、ここまで趣味を追求していいんだ、好きなことを言っていいんだ」と、背中を押された感がありました。

Q3.ご主人は、最初の相談の時、ご自分で描いた図面を持参されたそうですね。最初のプレゼンでは、ご主人の案をベースにしたものと、Diktaの提案の二つが提示され、検討の結果、Dikta案をベースに計画が進みました。

施主・夫

そうです。全体のイメージは、僕も妻もすぐに気に入りました。主に変更をお願いしたのは、階段の位置と、外壁の色です。提案ではリビング階段でしたが、吹き抜けになっていると冬は寒いんじゃないかと思って、階段を独立させてほしいと伝えました。外壁の色は妻の要望です。

施主・妻

最初に「茶と白」という要望を伝えていたんですが、提案のCGは私のイメージよりずいぶん明るいなと思いました。もともと、主人は「黒がいい」って言ってたんです。私も、何度も聞かされているうちに「黒もいいな」って思うようになったんですけど(笑)、「真っ黒はいやだな」と思って、「熊本城にはしないで」と言いました。それで焦げ茶ということになりました。

Q4.そうしてプランが修正されたのですね。

原田

このとき、シアタールームにも変更を加えています。『リスニングルームの音響学』(石井伸一郎[著]、誠文堂新光社)っていう本を貸してもらったよね。

施主・夫

あの本、買ったはいいけど、さっぱりわからなくて。原田に「読んで理解して設計して」と渡しました(笑)。

原田

僕もわからなかった。で、結論は「シアタールームの設計は音響の専門家に頼め(笑)」。

施主・夫

それは予算的に無理だったので、部屋の寸法比だけはこだわることにしました。音響や、座席からスクリーンまでの距離を考えると「高さ:短辺:長辺 = 3:4:5」が理想的らしいです。この比率になるように部屋の大きさを変更してもらいました。

原田

それから、プロジェクターの設置とメンテナンスができるように、CD・DVD棚の上にロフトも設けました。

施主・妻

このとき、キッチン奥のパントリー(食品庫)もつけてくれたんですよね。ああいうスペース「欲しいなー」と思っていました。

施主・夫

映画『ホビット』の中に、パントリーが出てくるんですよ。僕はあれを見て「これ、いいじゃん」と思いました。家の中でもない、外でもない、中間スペース。僕の実家は田舎の農家で、土間があるんです。漬物樽とか、農作物のような土のものが置けて、雨に濡れないのは、いいですよね。欲を言えば、車がすぐ横につけられたらと思いますが、まあ、重い物は僕が運び入れてます。

施主・妻

ガレージ横にパントリーがあったら理想的だったけど、それは無理だったので。でも本当に便利です。野菜やストック食材だけじゃなく、分別用のごみ箱も置けるし、トイレットペーパーなどのかさばる紙類もここに入れています。土足で出入りできるのもいいですね。

原田

すごくきれいに使ってますよね。思い切り汚して使ってもらうつもりだったのに(笑)。
そうそう、外壁の焦げ茶色は、最初にお見せしたサンプルから色を変更しましたよね

施主・妻

最初のサンプルは、ちょっと赤みがかった色でしたね。あの色も良かったんだけど、「これが家全体になったら、私たちのイメージより赤いよね」と主人と話しました。出かけた時にほかの家の外壁を見たり、焦げ茶色の家具とサンプルを並べて比べたりして、「赤味のない色にしてください」とお願いしました。そうしたら工務店の監督さんが、すぐに探してきてくれて、「この色!」と決まりました。

Q5.そうして打ち合わせを重ねてプランが固まり、工務店の見積もりも出て、相談再開から1年後に基本設計が完了。それから約半年間、実施設計の打ち合わせや減額案の検討を行って、いよいよ工事が始まりました。工事中の思い出はありますか。

施主・妻

私は、階段がつくまで2階に上がれなかったのが思い出です(笑)。高いところが苦手で。上棟式のとき餅投げをしたんですが、はしごで上らなくちゃいけないし、上ったら後で降りなきゃいけないし、必死でした。階段ができるまで、2階の様子は夫に見てもらって、下から「どーお?」って尋ねてました。

原田

僕は、メーカーの都合でシステムキッチンが入荷出来なかったことが大変な出来事でした。奥さんが特にこだわって選んだものでしたので……

施主・妻

そうでしたね。夫が、別メーカーの候補をネットで見つけてくれました。幸い、豊橋にショールームがあったので、原田さんに同行をお願いしました。なのに、その日を待ちきれずに夫婦で行っちゃって(笑)。一目で気に入って、オプションの蛇口も奮発しました。結果的に良かったです。デザインはこちらのほうが好きだし、掃除もしやすいし、気に入っています。

施主・夫

工事中の思い出というと、僕はシアタールームの天井です。パネルの色が黒と白とあって、黒がよかったんだけど、特注品で、納期も費用もかかることがわかりました。でも白にすると、まるで学校の音楽室になってしまう。困ったなと思っていたら、工務店さんが黒く塗ってくれました。

施主・妻

階段横の造りつけ本棚は、最初はコスト面で見送ったんですが、やっぱりつけてもらうことにして、正解でした。二人とも本をたくさん持っているので、本の置場がたっぷりあるのは嬉しいですね。

Q6.途中、不安はありませんでしたか。

施主・夫

不安……、そうですね。細かいことでは、ちょこちょこと。言ってることがうまく伝わっていないな、と思うときがありました。でもその都度、原田に聞いて、「大丈夫だね」と確認しながら進めていけました。

施主・妻

たとえば、固定棚でお願いしたところが可動棚になっていたりしましたね。そこは重い物を置く予定にしていたので心配だったんですが、耐荷重を聞いたら十分あったので、可動棚のまま使っています。

施主・夫

「小窓のガラス位置が違う」問題もありましたね。リビングと階段を仕切っている壁に、何か所か四角の小窓があって、半透明のガラスが嵌めてあります。壁の圧迫感を和らげて、小物も飾れるようにと原田が設計してくれたんだけど、最初、ガラスが一番奥(階段側)じゃなくて、壁の厚さの真ん中に嵌められてたんだよね。奥行きがわずかになっちゃって、これじゃあ小物を置こうにもほとんど置けない。

原田

小窓やシアタールームのDVDラックなどは、図面と違ったのでやり直してもらいました。

Q7.そうして、着工から7か月後、8月末についに完成。いかがでしたか。

施主・夫

僕は最初にシアタールームを見に行ったっけ。

施主・妻

私は「おー、キッチン、広い広い」って。もともと夫はアパートで一人暮らしをしていて、結婚したときに私の荷物を持ち込んだのでスペースがなくて、原田さんとの打ち合わせも玄関でしていたほどです。家ができあがって「広ーい」と思いました。新しく買い足すものはほとんどなかったので、すんなり生活が始まりました。

Q8.それから1年間、住んでみていかがですか。

施主・夫

いいよね。

施主・妻

いいよね。

施主・夫

冬は、なんか寒くて、カーテンを閉めてたっけ。

原田

え、寒い……? なんでだろ? 

施主・妻

エアコンをつけてなかったですしね。でも「真冬にエアコン買うと高いから」って、春まで布団をかぶって我慢しました(笑)。ストーブを買うことも考えたけど、エアコンをつけた後は無駄になっちゃうので、見送りました。

施主・夫

3月にエアコンの旧モデルが値下がりしたタイミングで、4台つけました。まとめ買いの割引があったし、工事もすいてたし、かなり得しましたよ。

原田

あーびっくりした。設計上の落ち度かと思った(笑)。

Q9.これから、この家でどんなふうに暮らしていかれるのでしょう。

施主・妻

そうですね、このまま、楽しく。先日、夫の友達が遊びに来てくれたんですけど、はるばる関東から来たのにどこにも出かけず、男5人でシアタールームにこもりきりなんですよ。不思議というか、もったいないというか(笑)。でもとても楽しそうでした。私は、正面の畑に、まだちょっとしか野菜を植えていないので、慣れたら少し増やせたらと思っています。

施主・夫

やらなきゃいけないと思っているのは雑草対策ですね。完成から1年経って、土地の法面やガレージ裏の草がずいぶん伸びてしまって。面積がかなりあるので、草刈りでは限界があると感じています。費用と効果のバランスも含めて、原田や工務店さんに相談に乗ってもらいながら、できる対策をしていこうと思っています。

原田

石垣つくろうぜ!石垣! 
※注釈:原田は石垣と土塁好きです

施主・夫

それは無理だって(笑)。

Q10.最後に、この際、言いたいことがあれば伺います(笑)。

施主・夫

俺の話を真剣に聞いてください(笑)。デザイン的な部分は妻の意見に任せていたこともあるけど、天井の梁を見せるか見せないかとか、壁紙の色はこれでいいかとか、妻には聞くのに、俺には聞いてくれない。そこは最後まで同級生対応だったね。

施主・妻

私はしっかり話を聞いてもらえて、大満足です(笑)。

原田

また、地元の焼肉店、一緒に行こう。今日はありがとうございました。

「杉山の家」の外観の特徴である、少しだけ斜めに立ち上がった側面の壁は、庇の役割も果たしています。そのため、バルコニーは中から見ると開放感がありながら、雨がほとんど降り込まないようになっています。よほどの暴風雨でないかぎり、洗濯物をそのまま干しておけるそうです。キッチン裏のパントリーといい、主婦としてうらやましい!
 今回は、施主ご主人と建築家が同級生という間柄。気兼ねないやりとりから、家づくりもそんな雰囲気で進んだことが伝わってきました。けれど、3人のお話を伺っていて、知人に設計を頼めばいいわけではないことも強く感じました。知り合いならではの遠慮や甘えを排除できる力が、施主側にも設計者側にも求められます。仲良しの建築家がいても、あるいは、友人から紹介を受けても、あえて別の設計者に依頼するほうが、無理なく、うまくいく場合もあるでしょう。「杉山の家」は、旧知の友人としても、施主と建築家としても相性良好という、幸運な組み合わせで完成したのだと思います。(本間徳子)

豊橋、豊川、蒲郡、岡崎、豊田、設計事務所と創る注文住宅|有限会社 ディクタ建築事務所

有限会社 ディクタ建築事務所 / Dikta architects office

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