今から30年前の4月下旬。
そろそろ就職活動を……という時期、学科事務室で友人と過ごしていたときのことです。
新刊の本棚を眺めていると、友人が言いました。
「この人の作品集出たんだ。面白い建築家だよ」
その場で手に取り、読み始めました。
当時はバブル絶頂期。
日本的なものがあまり顧みられない時代でした。
そんな中で目にした、日本的なデザイン。
とても新鮮に映りました。
特に心を惹かれたのは、
「名島邸」や「高槻の家」のような、白い漆喰壁と切妻屋根の住宅。
建築の理論も分かりやすく、文章も面白い。
写真で拝見するお顔は穏やかで優しそう。
出江先生に師事し、いつか自分もこのような設計ができるようになりたい。
そう思うようになりました。
5月末。
意を決して出江事務所へ電話を入れ、面接を受ける運びに。
6月、面接の日。
女性スタッフが運んでくださった、
小ぶりなフロストの冷茶グラスに注がれた麦茶。
その折り目正しい立ち居振る舞い。
瀟洒なグラスからにじみ出る、美意識。
それだけで、緊張はさらに高まっていきます。
やがて、ガタン、とドアが開く音。
先生が入ってこられた瞬間、
かつてないほどの緊張で頭の中が一気に高揚しました。
そして――
なぜここまで叱られなければならないのか……と思うほど、叱られました。
叱られているうちに、なぜか先生の機嫌は少しずつ良くなり、
「まあ、試しに夏休みの1ヵ月間、OPEN DESKに来なさい。」
と、首の皮一枚つながることに。
あれから30年。
あの日、面接室で飲んだ麦茶の味は正直覚えていないのですが、
先生がドアを開けて入ってきた瞬間の緊張は、
今でも昨日のことのように思い出すことができます。
2019.06.22 原田久
